一寸の魚にも五分の魂

昨年の夏から黒天KURO-TEN店内1階の水槽でオカヤドカリを飼育しており、お子様たちの人気者となっていましたが、今年の夏に掃除した際に2階へと引っ越ししました。

1階の水槽が空っぽになったので、何か飼おうかなとスタッフに意見を聞いてみると、「ニモがいい!!」という意見が多数。(笑)ニモといえばディズニー映画「ファインディングニモ」に登場するカクレクマノミの名前です。

というわけで、カクレクマノミの飼育を始めることになりました。

カクレクマノミ

私は昔に実家で淡水の熱帯魚を飼っていた(正確には子供の頃に両親が)記憶がありますが、海水の魚を飼育したことはありませんでした。子供の頃から生き物を飼育することは大好きなので、様々な生き物を飼育してきた経験があり海水魚も飼えるだろうと軽い気持ちで飼育をスタートしました。

といっても簡単に魚を買って来て水槽に放り込んだわけではありません。当たり前ですが(笑)まず、魚に適した環境を整えるために、人工海水を作りライブロックを使って飼育環境に必要な微生物を繁殖させ……というところから話を始めてしまうとめちゃくちゃ長くなってしまうので、海水魚飼育のノウハウについては次の機会にブログに書くことにします。

そのカクレクマノミをお迎えしてからしばらく経った頃、お店の閉店作業も終わり帰宅しようかなと水槽を眺めていると異変に気付きました。

「ニモが一匹居ない!」

二匹居てるはずのカクレクマノミのうち一匹が見当たりません。ライブロックの影に隠れているのかな?珊瑚の影に隠れているのかな?と水槽の中を探してみましたが、姿を確認出来ません。これはまさか、と思い今度は水槽の周りを探しはじめました。すると濾過装置や照明のパイプやケーブルが配置してある水槽の外側の奥に変わり果てたカクレクマノミの姿があるではありませんか!いつからそこに居てたのでしょうか?水槽から飛び出して時間が経ってしまった様で、カラダは少し乾燥し始めていました。「もっと早くに見つけてあげられたら、ごめんね。」と悔しい思いと悲しい思いが込み上げて来ました。

そして、動かなくなってしまったカクレクマノミを握りしめて、どこかに埋めて埋葬してあげようと考えていました。すると、何か手のひらに「トクン」と鼓動の様なものを感じた気がしてカクレクマノミを見てみましたが何も動いた様子はありません。そこで私は埋葬に歩き出した足を止めて水槽に戻って、海水を少し手ですくってカクレクマノミの亡骸にかけてやりました。

すると驚いたことに、エラがピクリと動いて微かに呼吸を始めたのです!ビックリした私は慌てて水槽にカクレクマノミを入れてみました。しかし、呼吸は出来たものの泳ぐことは出来ず、ただ水流に流されて水槽の中をグルグルと浮遊しているだけです。それをカクレクマノミと同時に水槽にお迎えしたスカンクシュリンプがエサと思って捕まえようと狙っています。この弱ってしまったカクレクマノミは水槽の中では一番強かったのに、こうなってしまえばエサと認識されるようです。

スカンクシュリンプ

「ああ、このまま明日になれば間違いなく食べられてしまっているだろうな。」と思い、どうすることも出来ずにその日は店をあとにしました。

しかし次の日の朝、奇跡は起こりました。水流に負けることなくあの子が泳いでいるではありませんか!こんなに小さな魚のどこにこれほどの生命力があるのでしょう。昨夜は黒っぽく変色してしまっていた体色ももとの黄色い体色に戻っているし、死んだ魚の目になっていたのに生き生きとした目に変わって昨夜の弱々しい姿が嘘のようでした。まだ泳ぎ方がぎこちないので、一緒に泳いでいるシルキルリスズメダイにつつかれて、尾ビレがボロボロになっていました。おそらくエビにも齧られていたと思います。そこで、これ以上他の魚につつかれないように同じ水槽の中で隔離することにしました。

シルキルリスズメダイ
アケボノハゼ

隔離してから2週間ほど経った今では尾ビレの再生も始まり、泳ぎ方も以前の元気な時の泳ぎを取り戻してきたようです。そんな隔離ボックスの透明アクリル越しにもう一匹のカクレクマノミが離れない様子は、見ていて本当に微笑ましいです(笑)

隔離ボックスのアクリル越しに離れません

飛び出し事故から一か月くらいを目処に、隔離ボックスから出してあげようかと思っています。この水槽のボスだったこの子は、果たしてボスの座に返り咲くことが出来るのでしょうか?(o^^o)

それにしてもこんなことがあるんですねー。一度は死んだと思って握りしめていた小さな魚が、息を吹き返して元気に回復するなんて…