命を頂きました

再び五條へグループ猟に参加しに行って来ました。

集合場所も時間も前回と同じ午前8時半、先輩猟師の皆さんが続々と集まって来ました。

今回は最初、前回とは別の山に入りました。私はマチ(獲物を待ち伏せして仕留める役目)を担当するので、山を登った所で猟犬の投入を待っていました。無線からは『犬入れるよー』の声がかかりました。

勢子(獲物をマチの方へ追い立てる役目)の先輩方が犬と共に下方から山に入りました。しばらくして、『メス鹿2頭出たよー』と無線連絡入りました。

しかし、そこから道路を渡ってマチとは反対の山に向かったらしく、私達が待ち構えている斜面には鹿はやって来ませんでした。

そのまま1匹の犬は鹿を追跡して反対の山を登ってしまっているので、マチを引き上げて犬を追いかけて反対の山に車を走らせました。

山はジムニー大活躍
この茂みのはるか向こうに犬が居てます
ここは前回も来た山

なんとか犬を回収して『どうせやったらこの山やろかー』とリーダーが言いました。そこは前回も入った山でした。『じゃあ僕は前と同じ場所でマチやりますね!』と前回登った斜面をよじ登って、少し窪みになった所に身を隠してスタンバイしました。

猟犬はそれぞれ首にGPSの発信機を装着してるので、ハンディーの地図表示から位置を知ることが出来ます。それを見る限りだと鹿を追って反対の斜面を走っているようです。

この感じだともう獲物は来ないかなと、気を抜きかけたその時でした。無線機から、数匹の群れが私達の方にやって来ると連絡が入りました。

『前回と同じ失敗はしないぞ』と肝に銘じて、銃を構える手にも力が入っていました。

その数十秒後でした。地面を蹴る蹄の音と枯れ枝が折れるような音が近付いて来ました。四、五頭の鹿の群れです。

すかさず私はスコープで獲物の位置を捉えました。『スコープを覗いて獲物に合わせるんじゃない、自分の目にスコープのレチクルを合わせなさい。』その師匠の言葉どおり練習していたので、瞬時にスコープの照準は木々の隙間をぬって一頭のオス鹿の左胸上部、致命傷を与えられる位置に照準を合わせていました。一瞬で絶命させることで、その子の肉は美味しい肉にしてあげることが出来ます。ここしか無い!そう思って引き金を引きました。

私はとっさに左胸を狙いましたが、よく考えたら私から見た左は鹿にとったら右胸でした。左胸の心臓の少し上、止めざしする位置を狙ったつもりでしたが、後から冷静に考えると狙っていたのは心臓と反対側の右胸でした。

弾丸は胸から入って左の背中へ抜けていました

しかし、弾は狙い通りの右胸から入って背中から抜けていました。結果としては即死する位置に当たっていたと思います。転がり落ちて行った鹿のもとへ斜面を降りると、そこには息絶えた雄の鹿が横たわっていました。

駆けつけて下さった先輩猟師に血抜きのためのナイフの入れ方を教えてもらい、自らの手でナイフを心臓の上動脈あたりに一気に入れました。すると、押し出されるように空気が出てくると同時に、真っ赤な血液が溢れ出てきました。

今まで数えきれない魚や海老の命を奪うことはありましたが、人間と同じ哺乳類の命を奪うことは、これが初めて。極めて人間と同様の構造をした体から流れる血液を見た瞬間、『生きるということはこういう事か。』今まで見過ごしていたことを気付かされたような気がしました。

人間が口に出来るもの、それは全てこの世に生を受けたものに限られます。しかし、文明が発達した現在では加工技術と流通技術が進み、生きている物を食している感覚が薄れているように感じます。肉といえば、スーパーに並んでいるパッキングされた切り身を想像することが、当たり前の世の中だと思います。ほとんどの人は、血が滴る肉と骨の塊を想像しないでしょう。

私たちは常に他の生き物の命を頂いて生き延びているんだ

そんな当たり前の事実を目の前に突き付けられた瞬間でした。

その仕留めた雄の鹿は一歳か二歳といったところ。体重は35キロから40キロくらいと思われます。鹿としては大物ではありません。でも、山から車のある道路まで引きずり下ろすには、かなりの労力を使いました。一人で仕留めた鹿を引きずって山を歩きながら、命の重さを感じていました。

そのあとは、先輩猟師の手で解体するところを学ばせて頂きました。

猟師としての一歩を歩み出すと同時に、責任の重さを実感した日になりました。