ジビエ

先日の土曜午前、お店の仕込みに入る前に生駒のTさん宅まで車でひとっ走り行ってきました。

その目的はと言いますと、鹿が捕れたので解体しますとの連絡を頂いたので、解体作業を教えて頂くことです。到着すると前日に皮だけ剥いだ大人のオス鹿がお宅の軒先にぶら下がっていました。

お店のメニューは魚介類が大半を占めていますので、魚を捌くことは日常茶飯事ですが、鹿となると産まれて初めての経験です。魚と違って生物学的には人間と同じ哺乳類に分類されるので、少々複雑な心境になりますが、私たちは生きるために様々な命を頂いているのだ、という実感が増してきました。

肉を食べることに反対される方や、宗教上で禁じられている方など考え方は様々ですが、現状では鹿や猪などの野生鳥獣は害獣として駆除の対象になっています。これは、人間の農作物が受けている被害を減らすためです。これらの鳥獣は天敵が少なかったり、人間しか天敵がいないなど、放っておけば増える一方なので、国内の農作物の収穫量に大きな影響を及ぼすことになります。ただでさえ食料自給率が低い日本にとって、農作物の鳥獣被害は大変深刻なものとなっています。

農林水産省の報告によりますと、平成30年度の農作物の鳥獣による被害額は158億円に上ります。そのうちの約7割を鹿、猪、猿が占めており、被害面積では4分の3は鹿が占めています。

そこで国は、生態系に深刻な影響を与えている鹿や猪などの野生鳥獣を『半減』させる目標を掲げています。

私が特に着目している問題点は、捕獲された鳥獣の大半が廃棄処分されている事です。最初に生態系を狂わせてしまったのは、紛れもなく人間です。ですから、自分たちが壊してしまった生態系を、出来る限り元の状態に戻していくことは、人間の責務だと思います。その過程で失われていく命を無駄にすることは、あまりにも可哀想です。私たち料理人はその失われていく命を、出来る限り食材として使うことで、もう一度私たちの血となり肉となり、命の無駄使いを無くしていくことが出来ると思います。

そのためにも、捕らわれる鹿や猪をいかに美味しい食材にすることが出来るか、それを学び探究していきたいと思います。

私たちが食べられるものは全て生あるものです。命を頂いて生きていることに日々感謝。

私を狩猟の道へ引き込んだTさんに師事
相変わらず羨ましい作業スペース